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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)986号 判決 1960年9月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人ら代理人弁護士草光義質の上告理由第一点について。

原判決認定のように海底三五尋以上の海底にあつて引揚困難な沈没船は公称屯数二〇屯以上のものでも、一塊の船骸と化し、商法六八七条にいわゆる船舶たるの性質を失つたものと解すべきであり、従つてこれが所有権の移転を第三者に対抗するには民法一七八条によりその引渡のみを以て足り、登記その他の手続を必要としないものと解するを相当とする。しかして、如何なる場合にその引渡があつたものと看做すべかはひつきよう、当事者の一方がその所持をすなわち当該船体に対する実力的支配関係を他の一方の実力的支配関係に移属したか否かの事実認定の問題に帰着するわけであるが、原判示のような事情の下で判示各関係書類の授受があつた以上は右にいう当事者の一方の実力的支配関係が相手方の実力的支配関係に移属されたものと認めるを相当とするが故に、原判決が本件船体について民法一七八条にいわゆる引渡が完了し、従つて右船体の所有権移転については第三者に対する対抗要件を具備して遺漏なき旨判断したのは正当である。所論は本件船体について実力的支配関係の移属があつたものとする原判示の事実認定を非難するか、あるいは叙上に反する独自の法律論を展開するものであつて、採るを得ない。

同第二点について。

しかし、原判決はその挙示の証拠によつて所論契約は詐欺によつて締結されたものでない事情を具さに認定しており、右証拠に照合すれば右認定は首肯できる。所論は右認定と相容れない事実関係を陳弁しつつ、原判決に所論のかきんあるが如く主張するものであつて、ひつきよう原審の専権に属する事実認定を非難するに帰し、上告適法の理由とするに足りない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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